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横浜地方裁判所 昭和44年(行ウ)8号 判決

横浜市戸塚区舞岡町三四八二番地

原告

医療法人積愛会

右代表者理事

矢野正明

右訴訟代理人弁護士

大類武雄

小笹勝弘

鈴木元子

横浜市保土ヶ谷区帷子町二丁目六四番地

被告

保土ヶ谷税務署長

小林勝蔵

右指定代理人

帯谷政治

白井文彦

平山勝信

伊東真

高木茂

橋本久

右当事者間の昭和四四年(行ウ)第八号法人税更正処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和四三年一二月二七日原告に対してした(1)昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の欠損額金八二九、八九三円、法人税額金零円とする更正決定、(2)昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度の所得額金二、五六〇、三五三円、法人税額金七一六、八〇〇円、過少申告加算税額金三五、八〇〇円とする更正決定は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め請求原因として次のように述べた。

一、被告は昭和四三年一二月二七日原告に対し、(1)昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の所得について、原告の申告した欠損額金三、〇七四、七三三円を金八二九、八九三円とし、法人税額零円とする旨更正決定し、(2)昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度分の所得額金二、五六〇、三五三円、法人税額金七一六、八〇〇円、過少申告加算税額金三五、八〇〇円とする更正決定をした。

二、原告は右の各更正決定を不服として昭和四四年一月二七日東京国税局長に対し、右各更正決定取消の審査請求をしたが、翌日から起算して三ケ月以上経過しても未だに決定又は裁決がないので、行政事件訴訟法第八条第二項第一号により、右裁決を経ないで本件訴を提起した。

三、右の各更正決定はいずれも被告が法律の適用を誤つたもので違法である。

すなわち、原告は昭和四〇年三月三一日大蔵大臣より租税特別措置法第六二条の二第一項の適用について同法施行令第三九条の一三第一項に規定する要件をみたすものとして承認されており各事業年度の所得については法人税法第六六条第一項又は第二項の規定にかかわらず一〇〇分の二三の税率により法人税を賦課されるべきものである。しかるに被告のした前記一(2)の更正決定は、所得金額二、五六〇、三五三円に法人税法第六六条第二項を適用して一〇〇分の二八を乗じて計算し、法人税額七一六、八〇〇円を導き出しているものであり、前記一(1)の更正決定も一(2)と同日付で為されているので右の計算方法によつたものであることが明らかである。

四、よつて、被告のした各更正決定は、いずれも法律の適用を誤つたものであるから、その取消しを求める。

被告指定代理人らは本案前の申立として主文同旨の判決を求め、その理由として次のとおり述べた。

原告は本件各更正処分の取消しを求める法律上の利益を有しない。すなわち、被告は昭和四四年五月三一日原告に対し、原告が取消しを求めている請求原因一(1)、一(2)の各更正決定の全部を取消した。したがつて原告の右各更正決定の取消しを求める訴は、その目的を達しており、他に特段の取消を求める利益を有しないから、訴は不適法として却下すべきものである。

被告指定代理人らは本案に対する答弁趣旨として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

請求原因一、二の各事実を認める。ただし、租税特別措置法第六二条の二第一項とあるのは第六七条の二第一項の、同法施行令第三九条の一三第一項とあるのは第三九条の一五第一項の誤りである。同三の事実は同一(1)の処分に関する部分は争うがその他の事実は認める。

原告訴訟代理人は、被告の本案前の主張に対し、被告が昭和四三年一二月二七日付でなした更正決定が昭和四四年五月三一日付で全部取消されたことは認めると述べた。

立証として、被告指定代理人は乙第一から第三号証を提出し、原告訴訟代理人は乙各号証の成立をいずれも認めると述べた。

理由

本案前の主張について判断する。

被告が昭和四三年一二月二七日原告に対し、(1)昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日まで、および、(2)昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの各事業年度分の所得額、法人税額、過少申告加算税額について原告主張の内容の各更正決定をしたこと、被告は昭和四四年五月三一日原告に対し、右各更正決定を全部取消したことは当事者間に争いがない。右事実によると、原告が取消しを訴求している各更正決定はいずれも取消されたことで目的を達したものである。一般に、行政事件訴訟法第九条かつこ書きにいわゆる法律上の利益を有する場合とは、取消を求めた主要な目的は達したが、現在なおその処分が違法であつたことの宣言を求める意味で取消しを求める利益を有する場合であつて、その正当な利益があるとするためには、原告が現在その取消を求めることによつて、現在または将来の、原告の公法上の権利または法律関係に影響を及ぼすような事情が存在することを必要とする、と解される。ところで、取消訴訟の対象となつた更正決定が全部取消された場合、通常は右の意味での取消を求める法律上の利益は考えられない。したがつて、本件訴えは、行政事件訴訟法第九条かつこ書にいう取消しを求める法律上の利益を有しないものというほかなく、不適法として却下を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田良正 裁判官 高木積夫 裁判官 秋山賢三)

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